2020年7月9日木曜日

”植木の剪定方法、考え方”





ご存知のとおり、植木屋の仕事は主に植木に剪定を施す事です。

そして日本の剪定は、他国に類を見ない方法で、論理的に樹木の健全さと大きさを保つ事に重きを置いた独特の考え方が根付いております。

現在日本の様々な技術の多くは、往々にして海外のエッセンスから精度を追求するかたちで評価されておりますが、情報が容易に摂取できる昨今だからこそ、何もなかった時代に工夫しようと考えた独自の哲学が、今や盆栽や庭木の剪定、作庭に脚光を向けることとなったのだと思います。

各国共通して、枝の総量を減らす「引き算」を大まかに剪定と呼びますが、枝を透かしながら減らすという特有の考え方は、低木への日当たりの調整や風通しの確保、幹枝による適度な光合成の助長、内枝の充実、病害虫の発生を軽減するなどといった効果をもたらします。

そういった意味で剪定をつきつめてみると、造形に重きを置いていた考え方は、刃物の入れ方次第では医療にも変わるものだと考えております。

現在では樹木医学も発達し、生理学の概念も更新されておりますが、ここでは以上に述べました日本の基本的な剪定を、簡単な平面イラストで説明させていただきます。



さて、それではいよいよ剪定をしよう!
とする時は、大概は樹が大きく茂ってきた時だと思います。

「樹を際限なく大きくできる環境であれ」、そう念じてもやはり所有地が広がるわけでもなさそうですので、まず「どのくらい小さくしたいか」を考えて枝を抜いてゆきます。

現状の大きさが好ければ、そこから混みあっている枝と枝がぶつからないよう、上下左右の空間をつくるように剪定します。

私の師匠はサイコロの五の目を枝間に見立てて造ると美しい、と言っておりましたが、そのようにして隣の木と干渉せず、尚間隔を広く保てる大きさにすることが理想的です。

基本的に植木屋は、仕事として造形美を考えながら枝を抜きますので、離れたところから輪郭がとれた樹形となるように施します。





①絡んでいる枝 ②混雑している枝 ③上がっている枝 ④胴吹き ⑤ひこばえ ⑥輪郭(輪郭から飛び出している一つ下の細かい枝が、輪郭に納まるように切り戻す)

もっと小さくしたいようなら、季節と健康状態を配慮した上でより幹に近い枝で作る。






①~⑥の枝を切るとこのような状態になります。

目的は伸ばしたい方向の枝を残してあげること(中心の幹から素直に外側に、放射線状に伸びている形)ですので、それ以外の不要な枝を払って好い枝が伸ばせるように空間を設けてあげましょう。




⑥の輪郭を造る際は切り返し剪定が望ましいです。

その理由については以下のトピックで説明しております

切り返し剪定とは、健康そうな枝を残してその先を切り落とす剪定方法で、太い枝でも細い枝でも、幹でも考え方は同じです。

残った細かい枝も、輪郭からあまりにも飛び出ているようでしたら切り返してあげましょう。








切断位置は①。

②③で切断すると、赤い斜線の部分が邪魔をして傷口を修復できずに、腐りや枯れ、病気の原因となります。

桜や椎など、強剪定に弱い木が致命的に不朽しているものをよく見かけますが、その多くが②③で切断されております。

切り口が大きい場合は、ペースト状の塗布剤を利用し、殺菌防菌、芯材の含水蒸発を心がけましょう。




枝が太くなると、枝の基部にシワが盛りあがる。これをブランチカラーと呼び、この組織をのこして切断することで傷口が早く完治するらしいです。





密集した枝を二本程度に間引きする
根本から綺麗に切れない場合や、見栄えが崩れないようなら下の枝で切り返す





以上は剪定の基本となります。


要点は、
混雑する枝を抜き→健康な枝を残して切り返し→形を造る


ここからは枝先の剪定、低木等剪定のご説明をさせていただきます。




大まかに形を整えた樹木、このままでも自然風の仕上がりでよろしいかと思います。

決定した輪郭どおりに剪定しても、多少前後していても、各枝に供給される養分はまちまちですので数か月もすれば輪郭から飛びでてくる枝が発生しますから、ご自宅の木を剪定する際はあまり気になさることはないかもしれませんが、ここから更に枝先を切って止める方法があります。



植物は往々にして頂部優勢という性質を持っており、オーキシンというホルモンが枝先に集中し、個体をより大きく成長させようとします。
(オーキシンと屈性の原理
https://www.660jinbei.com/2020/09/blog-post.html

その枝先を切ることで、樹木は養分の行き場をなくし、傷口の治癒に力を分散させながら、切断部より下についている葉の脇や隠れ芽から新しい芽を発生させる作戦にきりかえます。

盆栽家や植木屋はこの性質を利用して、伸長の遅延や、枝を増やす事を目的として枝先を止めたりします。

支障がないようでしたら、やはり自然風に、養分の滞りがないように剪定してあげることが望ましいのかもしれませんが、モチノキやアジサイなどの手入れには有効な選択かもしれません。


①伸びすぎた枝を元から外す ②上向き等の支障枝を外す

大まかに枝を剪定した後に、残った細かい枝先の葉がついている部分で切る。




アジサイなどの低木も同じように、決めた輪郭から出た枝を葉がついてる部分で切る。

伸びすぎた枝は根元から切るようにすると、混雑も緩和することでしょう。



このようにして、抜いたり止めたりしながら、目安の大きさまで引き算を繰り返すのですが、初めに迷うのは「どのくらいの目安」というところだと思います。

大きさも、枝の間隔にも、絶対の正解がないので、このあたりのバランス感覚はまちまちですし、季節や樹種によってもかわります。

しかし、ご自宅にて共存している樹が、果たしてどのような伸び方をし、どのくらい切っても良いのかを探りながら手入れするのも剪定の醍醐味ではないでしょうか。

かく言う私も盆栽の枝を一本切るのに、一時間かけても切れなかったことがございます。

盆栽と庭木とは考え方が些か違うところもありますが、その枝の数年後を想像しながら手を入れる、、、
言わばそれは、現在行う一つの行動が数年後の未来を形成する、などどいう哲学じみた真理が剪定のなかに含まれている、、、
というのは大袈裟な話ですが、やはり「切ってみる」という行為をすることでその樹が解ってくると思います。

正直な話、ヘタクソなイラストや文章に時間をかけてご説明させていただきましたが、感覚的な分野を文字で表現することの限界を感じました。

ということで、最後に一言

百聞は一見にしかず、、、最高のことわざの裏技となりますが、このトピックがどなた様かの参考になっていただけると幸いであります。